中学生たちとディベートをしました。テーマは、「自分を育ててくれるならどんな先生が良いか?」。「ほめて伸ばす」「自主性を大切にする」「間違えをキチンと指導する」の3チームに分かれ自分たちの考えを主張しました。相手の意見を尊重しながら、自分の考えを構築し主張するディベートは、最近は小学生の頃から授業で行われています。どのチームが優勢とまでは至りませんでしたが、有意義な時間でした。私も小・中・高・大と素敵な先生たちと出会えましたが、今日は、20代後半に出会った上司Sさんの思い出です。
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身を乗り出しながら、「おぅ、おもしろそうじゃねえか!」とあの人が言う。体をイスに戻しながら、「やってみな!」と真っ直ぐな視線を投げかけてくる。一呼吸あって、「でもなぁ、ここんとこはこうした方がいいんじゃねえか?」とニコッとほほ笑む、あの人の魔法の
「三段激励」である。
あの人とは、私が20代後半に出会った上司Sさん。もう40年も前のこと。Sさんの席に、部下が資料を持って相談に行くと、いかなる時も「三段激励」で部下の心に火をつけてくれた。みんな、Sさんの魔法が心地良かった。Sさんのいる空間では、いつも「おもしろい」という言葉が踊っていた。周りの若者たちは、「仕事」が楽しくてのめり込んでいった。「やってみな!」にもキモがあった。Sさんは「自主性の強いタイプ」には「やってみな」と声をかけたが、他の部下には「○○と一緒に…」などとアドバイスすることもあった。部下に応じて、後押しの一言を見事に使い分けていたのだ。三段目の「修正箇所」も相手が気持ちよく受け入れられるように指摘してくれた。
Sさんが定年退職した後も、昔の部下たちが、「Sさんを囲む会」を年に1回は開催していた。ある時、「三段激励」の話題になった。Sさんは、「だってよう、ホントにおもしろかったんだもん」とカッカッと笑った。私は部下を持つようになってから、いつもどこかでSさんをモデルにしていた。悩んだ時はSさんを思い出した。「Sさんなら、どう考えて、どう行動するだろう?」と。
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CASAの立ち上げ準備をしている時に、Sさんに相談したことがあります。Sさんは昔と同じ「三段激励」で後押ししてくれました。そして「俺も仲間に入れてくれぇ!」とおまけがつきました。残念ながら、SさんはCASA立ち上げの前年に旅立ってしまいました。CASAに集う若者たちに、こんな
「人間の本物(造語:すごい人間という意味)」に触れて欲しかったなぁと今でも思います。私の人生における幸せの1つは、憧れでもある「人生の師」に出会えたことです。
実は「三段激励」には、ディベートのテーマだった、「ほめて伸ばす」「自主性を大切にする」「間違えをキチンと指導する」の3つの要素が全て含まれているのです。私自身、都立高校の民間人校長をした経験から、学校という組織には、若い教員が「人間の本物」と出会い、育っていく風土・環境が欠落していることを痛感しました。若い教員は、一年目からベテラン教員と同じ土俵に立たされているのです。校長、副校長の他に、主幹教諭、主任教諭などといった指導的職位を作っているのですが、形だけで柔軟に機能していないのです。こんな学校を巡る環境を知った上で、いやこんな状況だからこそ、すべての先生たちにエールを贈ります。生徒たちが、「こんな先生に出会えてホントに良かった!」と思える「人生の師」「人間の本物」を目指してください。そのためには、超多忙な学校という閉鎖的な空間だけに埋没することなく、違う世界へも視野を広げ、「人間の本物」と出会う経験を積んでください。CASAでも、私が学んだ「人生の師」「人間の本物」を少しでも子どもたちに引き継ぎ、伝えられるよう努めていきます。
小沼 好宏